「ああ、もう、この人も落目だ。一日生き延びれば、生き延びただけ、あさはかな醜態をさらすだけだ。
花は、しぼまぬうちこそ、花である。美しい間に、剪きらなければならぬ。あの人を、一ばん愛しているのは私だ。
どのように人から憎まれてもいい。一日も早くあの人を殺してあげなければならぬ」/太宰治『駈込み訴え』より
眼前には、輝く花。
花々の先には たくさんの蝶が集合し、
その重みが 私の視界を黄色くうめつくしてゆく。
「ユダの着ている服が黄色なのは、嫉妬という意味があるから」
…気付いたら、あなたのことを好きになりすぎてしまっていたよ。
そして 私の中のもう一人のわたしも同時に目を覚ましてしまった。
あなたはわたしのことを受けとめられる?って、
無惨な実験を繰り返したくなって、
身体が黄色く膿んで腫れ上がっていくんだ。
何回も、何回も、何千回も繰り返してることを
常に更新して忘れていってしまう、馬鹿な私だ。
「…もういいよ」
って、わたしの次の言葉を止めようと作用する黄色い花粉。
優しく優しく 撫でるように降り積もっていくことば…
蝶の羽が落ちてくる その、スローモーション。
これは、私が最後に望んでいた風景だった、と。
思い出すように
懐かしむように
目を閉じる。